学校給食における食料ロス削減効果の「見える化」:データに基づく改善と政策立案
はじめに
学校給食における食料ロス削減は、食品廃棄物処理にかかるコストの削減、環境負荷の低減、そして食育を通じた児童生徒の食への意識向上という多角的な側面から、自治体にとって重要な課題となっています。しかし、具体的な削減目標の設定や、実施した施策の効果を客観的に評価することは容易ではありません。そこで、データに基づいた「見える化」が不可欠となります。本稿では、学校給食における食料ロス削減の効果を明確にし、持続可能な給食運営を実現するためのデータ活用と効果測定の具体的なアプローチについて解説いたします。
食料ロス削減におけるデータ活用の意義
食料ロス削減に向けた取り組みを効果的に進めるためには、まず現状を正確に把握し、具体的な目標を設定することが重要です。データ活用は、そのための客観的な根拠を提供し、以下の意義を持ちます。
- 現状把握と課題の特定: 何が、どれだけ、なぜ廃棄されているのかを数値で把握することで、改善すべきポイントが明確になります。
- 目標設定と進捗管理: 具体的な数値目標を設定し、定期的にデータを収集・分析することで、目標達成に向けた進捗を管理しやすくなります。
- 施策の効果検証: 新しい献立の導入や食育活動の実施が、実際に食料ロス削減にどの程度貢献したかを客観的に評価できます。
- 関係者への説明責任: 削減効果を数値で示すことで、議会や市民、学校関係者に対し、取り組みの意義と成果を具体的に説明することが可能になります。
- 政策立案と予算確保: データに基づいた効果予測や実績は、新たな施策の提案や予算確保の際の強力な根拠となります。
具体的なデータ収集と測定方法
学校給食における食料ロスは、主に「食べ残し(喫食ロス)」と「調理過程での廃棄(調理ロス)」に分類されます。これらのロスを測定するための具体的な方法を以下に示します。
1. 喫食ロスの測定
喫食ロスは、各クラスや児童生徒一人当たりの食べ残し量を測定することによって把握します。
- 残量測定の頻度と単位:
- 毎日測定: 定期的に全メニューの残量データを蓄積することで、献立や季節、学年ごとの傾向を把握できます。
- サンプル測定: 全ての学校やクラスでの毎日測定が難しい場合は、特定の学校やクラス、または特定のメニューに絞って測定し、傾向を把握します。
- 測定単位: グラム単位での精密な計量、または目視による段階評価(例: ほとんどない、少し残っている、半分残っている、ほとんど残っている)など、実情に応じた方法を選択します。
- 測定対象:
- 主食(ご飯、パン、麺)、主菜、副菜、汁物など、メニューごとの残量を測定します。特に、特定の品目の残量が多い場合は、その原因を探る手がかりとなります。
- 測定の実施者:
- 学校の給食担当教員、または給食配膳員が主に行うことが多いです。測定の負担軽減のため、簡易な計量器や残量記録シートの活用が有効です。
- デジタルツールの活用:
- タブレットやスマートフォンに導入できる専用アプリや、既存の給食管理システムと連携可能な残量記録システムを導入することで、データ入力の効率化と集計の自動化を図れます。例えば、写真撮影機能と組み合わせ、AIが残量を推測するシステムも研究されています。
2. 調理ロスの測定
調理ロスは、食材の下処理で発生する廃棄や、調理中に発生するロス、調理後の提供されずに廃棄される量を測定します。
- 計量による測定:
- 食材の下処理時に発生する皮やヘタ、骨などの可食部以外の廃棄量を計量します。
- 調理後の残量(例えば、余った煮物など)を計量し、廃棄量として記録します。
- 記録と分析:
- 給食センターや学校調理場の調理担当者が、毎日記録シートに廃棄量を記入し、定期的に集計・分析します。
- 食材の発注量と実際の使用量の乖離がないかを確認し、適正な発注量の調整に繋げます。
データ分析を通じた改善策の立案
収集したデータは、グラフ化や統計分析を通じて、具体的な改善策を立案するための基盤となります。
- 献立の改善:
- 残量が多いメニューや食材を特定し、調理方法の工夫(例: 細かく刻む、味付けを変える)、または献立の調整を行います。人気メニューの導入頻度を高めることも検討できます。
- 「苦手な食材ランキング」を作成し、集中的な食育活動や代替メニューの開発に繋げます。
- 適切な発注量の調整:
- 過去の喫食率データと季節変動、行事などを考慮し、より精度の高い発注量を算出します。給食センターと業者間での密な連携が不可欠です。
- 学校現場での指導強化:
- 残量の多いクラスや学年に対し、栄養士や教員が連携して、喫食指導や配膳指導を強化します。
- 給食時の食べ方のマナーや、食料ロスが環境に与える影響についての食育プログラムを導入します。
- 給食業者との連携強化:
- 食材の納品形態の見直し(例: 下処理済みの食材の利用)、調理方法の改善提案を通じて、調理ロスの削減に協力してもらうよう働きかけます。
効果測定と政策立案への応用
データに基づく取り組みは、単なる削減活動に留まらず、自治体の政策立案や予算確保において強力なツールとなります。
- コスト削減効果の算出:
- 食料ロス削減によって、食品購入費の削減、廃棄物処理費の削減といった具体的なコスト削減効果を算出します。これは、財政当局への説明資料として非常に有効です。
- 例: 1kgの食品ロス削減が〇円の費用削減に繋がるといった具体的な数値を提示します。
- 環境負荷低減効果の可視化:
- 削減された食品廃棄物の量から、CO2排出量削減効果などを推計し、環境面での貢献を可視化します。これにより、環境部局との連携や広報活動にも繋げられます。
- 予算確保への説得材料:
- 食料ロス削減のために必要な初期投資(例: 計量器、ITシステム導入)に対して、その投資が将来的にどれだけの経済的・環境的リターンを生むかをデータに基づいて説明します。
- 他自治体との比較とベンチマーク:
- 収集したデータは、全国平均や先進自治体のデータと比較することで、自自治体の立ち位置を客観的に評価し、改善目標設定の参考とすることができます。
- 長期的な政策計画への統合:
- 食料ロス削減の取り組みを、単年度の事業に留めず、自治体の環境基本計画や食育推進計画など、より上位の政策計画に位置づけ、持続可能な取り組みとして推進します。
実施上のポイントと課題
データに基づく食料ロス削減の取り組みを成功させるためには、いくつかのポイントがあります。
- 関係者間の連携体制構築:
- 給食課、学校、給食センター、食材供給業者、そして保護者が一体となって取り組むための情報共有と協力体制が不可欠です。定期的な会議や研修の実施が有効です。
- データ入力の負担軽減とIT活用:
- 現場の負担が増えすぎると、取り組みが継続しにくくなります。操作が簡単で、自動集計が可能なシステムの導入や、既存のデジタルツールとの連携を積極的に検討してください。
- 継続的な取り組みの重要性:
- データは一度取得して終わりではなく、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回し、継続的にデータを収集・分析し、改善策を実行していくことが重要です。
- 成功事例の共有と横展開:
- 取り組みによって食料ロス削減に成功した事例は、積極的に学校や関係者に共有し、モチベーションの向上と横展開を促します。
まとめ
学校給食における食料ロス削減は、持続可能な社会を実現するための重要な取り組みです。データに基づいた「見える化」は、現状を客観的に把握し、効果的な改善策を立案し、その成果を明確にすることで、自治体としての政策立案や予算確保に大きく貢献します。喫食ロスや調理ロスの具体的な測定方法、データ分析を通じた改善策の立案、そしてその効果を政策に活かす視点を持つことで、より実効性の高い「ゼロウェイスト給食」の実現に向けた一歩を踏み出すことができるでしょう。今後も、データ活用の知見を深め、持続可能な給食運営に貢献していくことが期待されます。